ナタリー PowerPush - 浅井健一
“光”の射すほうへ
光のある歌じゃないと歌いたくない
──歌詞に関してはどうですか? 特定のテーマはないということですが、全体に共通する気分というか、表したかったことは。
うーん、「紙飛行機」にしろ「ハラピニオ」にしろ、地球規模なことをなんか……今の時代にぴったしな歌詞がよく出たなって思っとるけどね。
──こういう大きなテーマな曲は昔からときどきありますね。でも昔とは少し描き方が変わってる気がします。
そうだね。「ハラピニオ」とか“光”があるじゃん。それが自分にとってはうれしいなあと思うんだよね。メロディと自分の歌いっぷりがなんか……聴いてる人を強くさせるというか。そういうプラスの、明るい要素を曲が持ってる。それを表現できた。それはうれしいし「やったー!」っていう気分だよ。やっぱね、歌って希望というか光がないとイヤなんだよね。昔はそんなこと関係なく作ってたんだけど。最近は……ちゃんと光のある歌じゃないと歌いたくないなあ。
──いつ頃から?
ちょっと前だね。3~4年前ぐらいかな。
──何かきっかけあったんですか?
いや、別にきっかけはないけど……長い間生きてきてそう思うようになったってことだよね。
──昔はもっと刹那的だったり。
昔はなんも考えとらんかったから。自分の思ったことを言うだけって感じがあったかもしれんけど。最近は、聴いた人が救われる……プラスになるような歌が歌いたいな。
──それを歌詞を書くときに心がけてる?
どえりゃー心がけてるわけじゃないけど(笑)。作っててどっちに転ぶかってときは、絶対プラスっていうか明るい方向に、って思ってる。映画でもさ、ただ絶望的な映画とかイヤじゃん? 最後は光があって終わらないと俺はイヤなんだよね、俺は、そんな暗い映画なんか観たくない。
──ここ数年の日本には震災とか原発問題とかいろいろあったじゃないですか。その中で希望をもった音楽が求められる風潮もあったわけですが、それは関係してますか。
ああ、それも関係しとるかもね。自然にね。
──震災のときに、自分は何のために音楽をやってるのか、音楽にどういう力があるのか、考えた音楽家も多かったと思うんですよ。
うーん……俺はあんまり考えんかったかな。えれーことが起きたなとは思ったけどね。ただそういうことに自然に影響は受けてるだろうから、作品を見ればわかるんじゃないかな。それでみんなが判断してくれればいい。自分は特定のテーマとか考えずに、そのとき自分が感じてる、そのときの自分を表しとるだけなんだわ。
──さっき話に出た「光のある歌じゃなきゃダメだ」という気持ちになったのは、震災とは関係ないんですか?
多少なりとも影響はあると思うよ。でもどれだけ影響してるかはわからないな。少なくとも自覚的になったことはない。でもまったくないというわけでもないと思う。
普通の人だから努力する
──歌詞と曲の関係性は変わってきましたか? 光の射すような曲を志向するようになって。
別に変わってないと思うよ。
──相変わらずマイナーコード主体ですよね。
そうだねえ。まあメジャーも……前よりは多いと思うけど。
──そもそも浅井健一がマイナーコードに惹かれる理由はなぜなんでしょうか?
それはわからないなあ、自分では(笑)。カッコいい曲を作ろうと思ってるだけだから。
──そう思って作ってると自然と……。
マイナーコードが多くなる(笑)。そういうことじゃないかなあ。
──だから浅井健一のサウンドは昔から変わらない。ただ歌詞はさっきから話に出ているように、少し変わったと思う。思いのままに書きつづるというよりは、「光のある歌詞を書こう」という意志がこもっているというか。そのぶん丁寧に、言葉が選ばれているという気がします。
歌詞はねえ……書くの大変でしょう。なかなかいい歌詞書こうと思っても書けれんが、普通の人は。俺も普通の人だもんね。だから努力して。何回も何回も努力して書いとるかな。そのうちいいのができてくる。
──それは本を読んだり、人の話を聞いたり……。
うん。最近、本を読むの好きだねえ。ちょっと前まで全然好きじゃなかったけど、最近好きになった。
──語彙を増やしていくと歌詞の表現の幅が広がりますよね?
でも言葉をいっぱい知っとるからいい歌詞が書けるとは、俺は思わないね。
──では、いい歌詞を書くには何が必要でしょう?
その人の感覚だわね。素直さとその人の感覚。言葉を知っとるからって……知ってれば知ってるほど、いい歌詞なんて書けないと思うな、逆に。単純な、誰でも使っとるような言葉でも、その人が素直に言っとるのが一番、みんなの心を打ったりするときがある。その人がただ単にそこで思った言葉でいいんだよね。格好つけようとするとそれがすぐ文章に出るから。すぐわかる。本読んどってもさ、この本書いとる人全然アホだなとか、すぐわかるもん。この人はただ自分の知識をひけらかして偉ぶりたいだけだ、みたいな。そんなのすぐわかるじゃん。この作者はほんとの自分の本心で書いとるな、とかさ。わかるでしょ、この歳になってくれば。もちろん言葉とか知識はあったほうがいいと思うんだけど。
──浅井さんはものすごく多作ですよね。
多作だねえ。
──それだけの数の歌詞のテーマを見つけてくるのも、言葉を探しあてるのも大変だと思うけど。
ふふふふ(笑)。だからおんなじような話になっちゃったりするときもあるよ。あれ、これ前に歌ったなあっていう。まあいいか、とか思って(笑)。
──同じ人が作ってるんだから、そういうこともあるだろうけど。
うん。なるべくないようにしなきゃいけないんだけど(笑)。
──過去の自分の作品と似ていたら全部ボツにする人もいますね。
うん。でもやっぱり年齢が違うから、同じようなテーマになったとしても、20代のときにそのテーマで書いたのと、49歳になって書いたのとは、なんか違うんだよね。だから大丈夫だと思ってるんだけど。
- ニューアルバム「Nancy」 / 2014年7月9日発売 / Sexy Stones Records
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3672円 / VKCA-10050~1
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3672円 / VKCA-10050~1
- 通常盤 [CD] 3240円 / VKCA-10052
収録曲
- Sky Diving Baby
- Stinger
- Parmesan Cheese
- 紙飛行機
- Johnny Love
- Papyrus
- 桜
- 僕は何だろう
- 君をさがす
- ラビット帽
- ハラピニオ
初回限定盤付属CD収録内容
- ゴースト
- MORRIS SACRAMENT
- Remmy Roll
- 並木道
- プラネタリウム
※2013年11月12日に東京・LIQUIDROOM ebisuで行われた「GARAM MASALA NIGHT ~Live at LIQUIDROOM」から浅井自身が選曲したライブ音源
浅井健一(アサイケンイチ)
1964年愛知県出身。1991年にBLANKEY JET CITYのボーカル&ギターとして、シングル「不良少年のうた」とアルバム「Red Guitar and the Truth」でメジャーデビューを飾る。数々の名作を残し、2000年7月に惜しまれつつ解散。その後、SHERBETSやJUDEなどさまざまな形でバンド活動を続け、2006年7月にソロ名義では初となるシングル「危険すぎる」、同年9月に初ソロアルバム「Johnny Hell」をリリースした。繊細なタッチで描かれるイラストも高く評価されており、絵本や画集などを発表している。2014年7月に6枚目のオリジナルソロアルバム「Nancy」をリリースする。